(発行・2008/11/15)「電話相談を受けて」より転載
センターのアドバイザー弁護士の条件
今年2008年、東京・強姦救援センターは設立25年目を迎えました。開設以来、センターではアドバイザー弁護士を依頼するとき、次の2つの条件を出しています。1.女性であること、2.加害者の弁護をしないことです。
1.女性であることとする理由は、被害者が被害について話しやすく、また、心情をわかってもらいやすいからです。ほかにも男性弁護士だと被害感情が甦る場合が多いということがあります。
2.加害者の弁護をしないことという条件については、抵抗感を示す弁護士も少なからずいます。「法律のプロとしてどんな事件でも引き受けるのを信条としている」「強姦する男の気持ちや動機を知ることも重要。それは被害者に付いたときにも役立つと思う」などがこれまで聞かれた声です。
しかし、強姦裁判で加害者の側に立つということは、いかに加害者の罪を軽くするか、あるいはどうやって無罪にもっていくかに力を尽くすことです。そのためには被害者の「落ち度」を作り出したり、被害者を貶めて攻撃したりするでしょう。こうした弁護活動が実行できる女性弁護士と、被害者が信頼関係を結ぶのは難しいと考えます。
もうひとつ、見過ごせないのは、裁判で加害者にもたらされる利益です。
ここに、強姦裁判において加害者に女性弁護士がつくことの影響について、英国・サセックス大学のジェニファー・テムキン教授の注目すべき調査があります。加害者弁護における戦略についてたずねた結果、10ある戦略の筆頭に「女性弁護士の起用」が挙げられています。
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調査に答えたバリスター(法廷代理人)たちは、ほとんどが検察側、弁護側の両方を経験している。(10名にインタビュー。女性8名・男性2名)
戦略1.女性弁護士の起用
被告(注・加害者)に女性の弁護人をつけるのはよく使われる戦略である。女性の弁護人は、被告にとっての裁判に信用性をもたらすと数人の回答者が述べている。
〝この女性(弁護人)は被告に対し恐怖心を持っていない。そしてまた被害者よりも被告のほうを信じている〟
というメッセージが陪審員へ発信されるのである。「同じ女性が女性を攻撃するほうが、男性が女性を攻撃するよりずっとその主張が有効だと被告は思っているのです」と女性回答者のひとりは語っている。
陪審員がたやすくこの戦略に取り込まれると回答者全員が確信しているわけではないが、この策略がかなり効果的だと何人かは感じている。
(Journal of Law and Society, Volume 27, No 2, June 2000, Prosecuting and Defending Rape: Perspectives From the Bar)
欧米にみられる陪審員制に並んで、日本でも来年から裁判員制度がスタートします。
強姦が女性なら誰もが嫌悪感を持つはずの犯罪にも関わらず、女性が弁護するということは、人々に対して被害はたいしたことではないと感じさせたり、被害そのものも疑わしいと思わせてしまう可能性があります。また、被害者と同じ女性が、対立側に立って主張しているのだから、この裁判は公平で、加害者の方に真実味があるという印象を作り出します。
社会が強姦被害者に対して持つ偏見や厳しい目は、そのまま法廷に持ち込まれて被害者を苦しめています。強姦裁判で、女性弁護士が加害者にもたらす利益を見逃してはなりません。