(発行・2000/12/15)「電話相談を受けて」より転載
痴漢をなくすには
痴漢の被害にあったときには通報することを勧めるポスターをJRや地下鉄などで目にすることがあります。
警察と鉄道会社の連名で制作されたそれらは、「痴漢は犯罪です」とか「痴漢撲滅のために!ほんの少しの勇気と周りの方々のご協力を」と呼びかけています。ポスターには女性の写真やイラストが使用されており、痴漢という犯罪をなくすのには、被害者である女性が少しの勇気を出して通報することが大切だというメッセージを伝えています。しかし、痴漢がなくならない原因は女性が被害を通報する勇気がないためなのでしょうか。
被害者が被害を通報したとき、その受け手の側には、女性を犯罪の被害者として正当に対応するための態勢が果たしてあるのでしょうか。被害の通報を促すのなら、勇気を出してと被害者に努力を強いる前に、まずは訴えた被害者の人権やプライバシーがきちんと守られることを提示し、実行してゆくことが先です。そこは不十分のまま、痴漢をなくすために被害者に勇気を出せと言うのは、的はずれな押し付けであり、責任のすり替えにほかなりません。被害者は勇気がないために黙っているのではありません。
社会は、痴漢は犯罪だといいながら加害者の言い逃れには驚くほど寛容です。例えば混んだ車内では仕方なく手が身体に触れてしまうという言い逃れによって、女性の訴えは勘違いだと片付けられたり、自意識過剰と責められる風潮さえあります。しかし、仕方なく触れてしまうのとそうでないのとの違いは触れられているほうには歴然と分かることです。痴漢ではないのに疑われるというのなら、痴漢と思われるようなところに手を置かなければ済むことです。同じ混んだ車内で女性同士はそのように配慮し工夫できるというのに、男にだけできないのはおかしな話です。にもかかわらず、痴漢は加害者の言い逃れがまかり通っています。
痴漢がなくならないのは被害者に通報する勇気がないからではありません。痴漢をなくすのに必要なのは、被害者に対してではなく、加害者に目を向け、加害者の行為を問題にすることです。また、何よりも訴えた被害者が被害者として保護され、正当な対応が受けられることです。